待ち合わせると ほぼ必ず彼の方が先に来ているのが定番で。
こちらが指名手配犯だということを気遣ってくれているらしいのだが、
落ち合う場所にもよるけれど、
こっちが人待ち顔で立っているより彼奴が立っている方が
目立つというか人目を引くので、あまり良策であるとは思えない。
今日も今日で、時間つぶしにか
何やらカラフルな小冊子を懐に抱えており、
開いた誌面へ じいと視線を落としているのだが。
きょときょとと動く暁色の双眸は時折の瞬きも惜しいほどの
集中ぶり、いやさ熱中ぶりで、
時折 口許がほころぶのがありありと見てとれ。
そんな彼へと、周囲の女子がくすくす笑いつつも注目しているのだから始末に負えぬ。
「…おい。」
「え? あ、ごめん、気が付かなかった。」
故意に、ずんと至近に立ってからという声掛けは、今に始まったことではないのに、
いちいち わあとやや驚きつつ、気づいてなくてごめんとあたふた謝る進歩のなさよ。
対峙する折は しっかとつっかるくせに
平時では何でも自分へ引き取るのかと思って、
そしてそれがまた何とはなし不快だったので、
当初は芥川のほうでもますますと眉を寄せたものだったが、
「そんな顔すんなよな。ちょっと入り込んでただけじゃないか。」
あからさまにむうとしかめ面を向けると、そこまで怒るなと言い返すから、
何へでも及び腰になるという訳でもないらしく。
「見苦しいものへ嫌悪の貌になって何が悪い。」
「見苦しいって。」
「ふやけまくっていたぞ。」
「なんだよそれ。」
どうせボクは誰かさんみたいにイケメンじゃありませんよぉと
口許尖らせつつ訳の分からぬことを言うのへ、
ますますと訝しい想いを感じつつ、
「男が “カワイイ”を連呼するものではない。」
「え?」
そうと付け足すと、
ギョッとしつつ、真白い頬がさぁっと赤く染まったので、
やはり自覚はなかった敦だったようで。
さすがに恥ずかしいことだという認識は一応あるらしかったが、
「口許がそれと判るほど動いていたぞ。」
「うあ、読唇術使える 達人め。」
声に出してまではいないこと、
遠目からでも読み取れる相手だったということならば。
だったら周囲には聞かれてもないものを
だのに指摘した相手へ、赤い顔のままぼそりと言い返した虎の少年。
周囲がどうのより そちらの彼に知られたのが恥ずかしいのかも知れず。
「昭和のおじさんみたいなこと言うなよな。」
「貴様こそ、幼児のような口利きを正さぬか。」
何だか妙なやり取りになりかかり、
説教じみてきた相手へ言い訳したいか、
手元に握ってたカラー満載の冊子を横に倒して見せる。
「だって、これ見ろよ、ほら。」
どうやら関連雑誌の宣伝を兼ねたPR冊子だったようで、
見開きに幾枚もの仔猫の写真がちりばめられてあり、
真っ白い子、つややかな漆黒の子、
ふさふさした毛並みの子に、
前脚のうえへ顔を伏せた“ごめん寝”をしている子、と。
色んな格好の愛くるしい仔猫が大小さまざま遊び散らかしているその上、
「そうだ、お前スマホだったよな。」
ハッとしたそのまま、ほらほら貸してと手のひらを開いて突き出され、
「???」
何で何でだと思いつつ、それでも悪意は感じないからか、
一般人でもそうそう素直に渡さないんじゃあという個人データ満載のツールを
言われるまま上着の衣嚢から取り出して差し出す、年上らしき彼も彼なら、
「ありがと♪」
途端にそれまでの不服そうな不満顔をあっという間に払拭し、
音がしそうなほどの笑みでにこーっと満面を塗りつぶした白髪の少年の方も方で。
そのまま何かしら操作して見せてから、
「ほら、ここのQRコードを…。」
とある写真の隅にあった四角い特殊なマークをカメラ機能で写し取れば、
紙面の上へかざしたスマホの液晶に、
ただの平板な写真ではなく
よちよちと覚束ない動きで歩いては糸のような声でにぃと鳴く仔猫の動画が映し出される。
「…何をした。」
「だから、この迷路みたいなマークに動画の情報が入ってるんだって。」
正確に言うと、動画をUPしたサイトへのURLへ誘導されているのだが、
この程度の活用へそこまでの細かな理屈は要らないようで。
ボクのガラケーでも観ることは出来るけど、やっぱりこっちの方が動きも綺麗だな、と。
独り言のように呟いてから、
「…?」
返答がない相手をちらと目線だけで敦が見上げれば。
そんな下らぬことへ興じてこやつはもうもうとばかり、
ますますと呆れるかと思えばさにあらず。
視線はそのまま、表情の薄そうな口許がぼそりとこぼした一言は、
「……愛いものだな。」
「でしょう♪」
寸の足らない四肢をちょこちょこと動かし、
撮影者が少しずつ逃げるのを追いつつ、
待って待ってという如くに にいにい鳴くのが得も言われず愛くるしい。
「メインクーンっていうんだって。」
「何だその名は、飼い主はじゃがいも狂か?」
じゃあなくてと、薄手のパーカー姿の白い少年が
適度な間合いと強さでツッコミを入れるところまでを さりげなく窺っていた周囲の女性らが、
苦し気な無言のまま 互いを肘で小突き合って、
何やらこそりと萌え合っているのも 実は此処では恒例なこと。
曜日も時間も定まってはない、どちらかといやウィークデイほど遭遇率の高い、
謎のイケメン少年たちの待ち合わせが、
ここいらを遊び場にしているJKたちの間でちょっとした噂になっており。
大学生かな? 高校生じゃない?
でもなんか ちょっと重厚っていうか、存在感が半端ないっていうか。
話し方がちゃらけてないし、どっちも姿勢がよくて凛々しいじゃない?
あ・でも白い子の方は可愛いんだよね。
そうそう、ふにゃって笑うの癒されるぅ。
そいでいつも黒っぽいカッコのお兄さんが
最初は窘めるんだけど、言い負かされるってゆうか。
色んな意味で一本取られた感じで
“しょうがない奴だなぁ”って途中で折れちゃうの。
そうそう、なんか負かされてる。
これ以上言っても時間かかるばっかで通じないかなとか、
逆に ありゃ上手いこと言うとかゆう感じで苦笑してやって。
そうそう、そうなんだよねvv
こそこそひそひそ、
自分たちを対象にそんな会話が為されているとも知らぬまま、
「ともかく、目立つ前に移動するぞ。」
「あ、うん。判った。」
ぼそりこそこそとそんな風に言い合って、
陽が高くなった分、日陰もほぼなかったような幌の下から歩み出す二人連れ。
今日はどこへ行くつもりだ?
えっとね、太宰さんが紹介状書いてくれたとこでね…
to be continued.(18.06.02.〜)
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*相変わらず、オフでは仲のいい新双黒です。
そして、結構目立っている容姿への自覚がありません。
旧双黒のお二人の場合は、
それも人心掌握や懐柔などへ生かして使える札だと把握してたらしいのですが、
こっちの二人の場合、片やは自己評価がいまだに低すぎ、
片やはそういう要素はキミには使いこなせぬと封されていたので、
自覚しろという方が無理な相談というもので。

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